
民泊の許可申請手順は?必要なものや予備知識、やるべきことを解説
民泊を始めるには、まず「許可申請」という大きなハードルをクリアしなければなりません。しかし、初めての申請では「どこに申請すればいいの?」「必要な書類は?」「法律の知識も必要?」と、不安や疑問がつきものです。
この記事では、民泊運営に必要な許可の種類と申請手順、準備すべき書類や知識、つまずきやすいポイントまでをわかりやすく解説します。スムーズに許可を取得し、安心して民泊をスタートさせたい方は、ぜひ参考にしてください。
CONTENTS
民泊の許可申請前に知っておきたい予備知識

ここからは、民泊の許可申請前に知っておきたい予備知識について紹介します。
個人と法人で必要書類が異なる
民泊を始める際に必要となる手続きの中でも、許可申請に関わる書類の準備は非常に重要です。特に申請者が個人か法人かによって、提出しなければならない書類の種類や内容が大きく異なるため注意が必要です。
個人の場合は、住民票や身分証明書、建物の登記事項証明書、賃貸物件であればオーナーからの使用承諾書などが求められます。一方、法人の場合はこれに加えて、法人登記簿謄本や定款、代表者の身分証明書など法人格を証明するための書類が必要になります。
また、法人での申請では、運営体制や事業計画についての説明責任も個人以上に求められる傾向があるため、準備段階から綿密な計画と書類作成が欠かせません。申請ミスや書類の不備があると許可取得までに大きな時間を要することもあるため、自身がどちらに該当するかを把握し、行政の指示に従って適切な書類を用意することが、スムーズな民泊運営への第一歩となります。
家主不在型は民泊管理業者への委託が必要
民泊の運営形態には大きく分けて「家主同居型」と「家主不在型」の2種類があり、それぞれに必要な対応が異なります。特に、家主不在型の民泊は、家主が宿泊施設に常駐しないため、宿泊者とのトラブルや緊急対応に対して不安が残ることから、法律上の制約も厳しく設けられています。
この運営形態で民泊を行うには、必ず国土交通省の認可を受けた民泊管理業者への業務委託が義務付けられており、委託契約書の提出が申請時に求められます。管理業者は、宿泊者の本人確認や宿泊者名簿の作成、緊急時の対応、清掃・ゴミ出しの管理、近隣住民との調整など、日常的な管理業務を担います。
これにより、家主が不在であっても、宿泊者の安心・安全が確保され、近隣住民への配慮も行き届いた運営が可能となります。家主不在型での運営を検討している場合は、信頼できる管理業者を早期に見つけ、契約内容を明確にしたうえで、申請準備を進めることが重要です。
周辺住民に事前周知が必要
民泊を始める際には、物件の内部だけでなく、その周囲の環境や人々との関係にも十分な配慮が求められます。特に、住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)に基づく届出制度では、民泊を運営する物件の周辺住民に対して、事前にその旨を周知することが義務付けられています。
これは、突然見知らぬ宿泊者が出入りすることで、不安や不信感を抱かせないようにするための措置であり、住民との良好な関係構築を図るための第一歩でもあります。周知方法としては、書面での通知や説明会の実施、掲示板の活用などがあり、行政からも具体的な指示が出される場合があります。
事前周知を怠ると、近隣からのクレームや通報によって行政指導を受け、最悪の場合は営業停止に至ることもあるため、慎重な対応が求められます。民泊は地域に溶け込む形で運営してこそ成功するものであり、そのためには透明性のある情報提供と、住民との信頼関係を築く努力が欠かせません。
マンションの管理規約で禁止されていることがある
マンションの一室を利用して民泊を運営する場合には、建物全体のルールである管理規約の内容を確認することが最も重要なステップの一つとなります。どれほど法的な許可を取得していても、マンションの管理規約で民泊の営業が禁止されていれば、その運営は認められません。
実際、多くの分譲マンションでは、居住者の生活環境を守るために、不特定多数の出入りがある民泊を明確に禁止しているケースが少なくありません。禁止事項が明記されていなくとも、「住居専用」や「第三者への転貸禁止」といった条文によって、実質的に民泊が難しくなっていることもあります。
また、管理組合からの承認が必要とされる場合もあり、住民総会での承認が得られなければ営業は困難になります。そのため、マンションで民泊を始めることを検討する際は、まず管理規約を読み込むとともに、管理会社や管理組合に相談し、許可の可否を事前に確認しておくことが不可欠です。マンションという共同住宅特有の制約を理解し、トラブルを未然に防ぐ姿勢が、長期的な民泊運営の成功につながります。
民泊の許可申請に必要なもの

ここからは、民泊の許可申請に必要なものについて紹介します。
住宅宿泊事業届出書
民泊を法的に運営するためには、まず「住宅宿泊事業届出書」の提出が不可欠です。この書類は、住宅宿泊事業法に基づき、民泊運営を開始するための正式な届出であり、都道府県や政令指定都市、中核市といった所管の行政機関に提出する必要があります。
届出書には、申請者の基本情報や運営予定の物件の所在地、間取り、宿泊可能人数、営業日数の上限(年間180日以内)など、詳細な情報を記載することが求められます。また、家主が居住するかどうか、つまり「家主同居型」か「家主不在型」かの区別も重要で、それによって追加の要件や書類も変わってきます。
さらに、本人確認書類や住民票、賃貸物件の場合はオーナーの同意書なども併せて提出する必要があるため、全体の手続きには相応の準備期間が必要です。住宅宿泊事業届出書は単なる形式的な書類ではなく、事業の適正性や周辺環境への配慮がなされているかを確認する重要な手段であるため、正確かつ丁寧に作成することが求められます。
物件の平面図
民泊の許可申請においては、運営予定の物件の「平面図」の提出も求められます。平面図は、宿泊者が滞在する空間の安全性や設備の配置、避難経路の確保状況などを行政が確認するための重要な資料となります。
この図面には、玄関や各部屋の配置、トイレや浴室、キッチンなどの生活設備の位置に加えて、非常口や消火器の設置場所といった防災関連の情報も明記されている必要があります。また、客室として使用するスペースの広さが法定基準を満たしているか、宿泊人数に対して十分な居住スペースが確保されているかも、図面から判断されます。
図面の作成は、建築士に依頼して正確に描いてもらうことが望ましいですが、自分で作成することも可能です。ただし、見づらい図面や不完全な記載があると、申請が差し戻されたり許可が下りなかったりする恐れがあるため、申請書類と同様に細心の注意を払う必要があります。正確で見やすい平面図の提出は、申請のスムーズな進行と信頼性の確保につながります。
消防計画書
民泊施設としての安全性を確保するためには、消防法に基づいた「消防計画書」の提出が求められます。この書類は、万が一火災などの緊急事態が発生した際に、どのように避難を誘導し、被害を最小限に抑えるかを事前に計画・明示したものです。
民泊における宿泊者は日本語がわからない外国人であるケースも多く、緊急時に適切な対応ができるよう、避難経路や消火器の設置場所、火災報知器の作動状況、避難誘導灯の設置有無など、安全に関する情報を明確に記載することが必要です。
また、物件の規模や構造によっては、所轄の消防署による事前の立入検査や、防火対象物使用開始届の提出が求められることもあります。特に、一定の収容人数を超える施設や、構造的に避難が困難と判断される物件については、より厳格な消防基準が適用される場合があるため、事前に消防署と綿密に相談しながら進めることが重要です。
消防計画書の内容は、単なる形式的なものでなく、実際に人命を守るための根拠となるため、現実に即した、実効性のある内容に仕上げることが求められます。
民泊の許可申請手順

ここからは、民泊の許可申請手順について紹介します。
役所や保健所に事前相談する
民泊の許可申請を円滑に進めるためには、いきなり書類作成に取りかかるのではなく、まず管轄の役所や保健所への事前相談を行うことが極めて重要です。住宅宿泊事業に関する規定は全国一律ではなく、各自治体ごとに独自の条例や細かな運用ルールが設けられているため、自分の物件がその地域で民泊運営に適しているかどうか、どのような書類が必要となるのか、個別に確認する必要があります。
事前相談では、具体的な物件の所在地や間取り、運営形態(家主同居型か不在型か)、想定宿泊人数などの情報をもとに、担当者から必要な手続きや注意点を教えてもらうことができます。行政の担当者と早い段階でコミュニケーションをとっておくことで、申請時のトラブルや申請書類の不備を防ぐことができ、結果として許可取得までの時間を大幅に短縮できます。
特に初めて民泊に取り組む人にとっては、制度の複雑さに戸惑うことも多いため、専門知識を持つ行政窓口を積極的に活用することが、成功の鍵となります。
必要書類を準備する
事前相談で得た情報をもとに、民泊の許可申請に必要な書類を一つずつ準備していきます。この段階は非常に重要で、書類の内容や整合性によって申請の成否が左右されるといっても過言ではありません。
住宅宿泊事業届出書をはじめ、物件の平面図や賃貸契約書、使用承諾書、本人確認書類、消防関係の書類など、提出すべき書類は多岐にわたります。また、家主不在型で運営する場合は民泊管理業者との委託契約書も必須となり、書類の種類がさらに増える傾向があります。各書類は提出先によってフォーマットや必要な添付資料が異なるため、事前に行政の公式サイトや窓口で最新の情報を入手し、指示通りに作成することが求められます。
不備があると再提出を求められることになり、許可取得までのスケジュールが大幅に遅れる恐れがあるため、慎重にチェックを重ねながら準備を進める必要があります。スムーズな申請のためには、必要書類を一覧で整理し、優先順位をつけて段階的に用意していくことが効果的です。
申請書類を提出する
必要な書類がすべてそろったら、いよいよ管轄の役所や保健所に対して正式な申請を行います。住宅宿泊事業の場合、オンラインでの申請が可能な自治体もありますが、多くの場合、窓口に書類一式を持参して提出する必要があります。
申請時には、書類の内容を行政の担当者がその場で確認し、記載ミスや不備があればその場で指摘されることもあります。そのため、提出前にはダブルチェックを行い、第三者に確認してもらうなどして正確性を担保しておくと安心です。
保健所の現地調査を実施
申請書類の受理後、保健所の職員による現地調査が実施されます。これは、提出された書類に記載された内容が実際の物件と一致しているかを確認し、安全性や衛生面に問題がないかを直接チェックするための重要なプロセスです。
調査では、設備の配置や広さ、避難経路の確保状況、清掃体制、ゴミの保管・処理方法、寝具の管理状況、トイレや浴室の衛生状態など、宿泊者が安全かつ快適に滞在できる環境が整っているかを細かく確認されます。また、火災報知器や消火器などの防災設備が正しく設置されているかもチェックの対象となります。
調査中に問題点が発見された場合は、その場で改善を指導され、後日再調査が行われることもあります。この現地調査をスムーズに乗り越えるためには、事前に自主点検を行い、基準に適合しているかを確認しておくことが大切です。保健所の調査は形式的なものではなく、宿泊者の安全と地域住民への配慮を確保するための実質的な審査であるため、誠実かつ丁寧に対応する姿勢が求められます。
民泊の許可申請後にやるべきこと

ここからは、民泊の許可申請後にやるべきことについて紹介します。
民泊サイトの登録
許可申請が受理された後は、実際に集客を始めるために、AirbnbやBooking.comなどの民泊仲介サイトへの登録作業に取り掛かる必要があります。これらのプラットフォームは国内外の旅行者にとって主要な宿泊予約手段であるため、登録することで広範な集客効果が見込めます。
登録に際しては、物件の写真や所在地、設備情報、宿泊料金、キャンセルポリシーなど、詳細な情報を正確に記載する必要があり、特に写真は第一印象を左右する重要な要素です。また、掲載内容に虚偽や誇張があると、ゲストからの信頼を損ない、レビュー評価にも悪影響を与える可能性があります。
そのため、実際の施設環境に即した正確な情報提供を心がけることが大切です。加えて、各プラットフォームにはレビュー管理や料金調整の自動化など便利な機能も多数あるため、それらを活用することで運営効率を高めることができます。
ハウスルールと案内資料の確認
運営開始後のトラブルを防ぐためには、宿泊者に対して明確なハウスルールと案内資料を事前に提供することが不可欠です。ハウスルールには、チェックイン・チェックアウトの時間帯、騒音の禁止、喫煙の可否、ペットの扱い、ごみの分別方法など、宿泊者が守るべき具体的なルールを記載しなければなりません。
特にマンションや住宅街に所在する民泊では、周辺住民とのトラブルを避けるため、騒音対策や共用部分での行動について明確に伝える必要があります。これらのルールを紙の冊子やPDF形式で部屋に備え付けるだけでなく、予約時やチェックイン前にメッセージで送付するなど、複数の手段で事前に周知する工夫も重要です。
また、施設の使い方を説明する案内資料には、家電の操作方法、Wi-Fiの接続方法、近隣施設の情報などを盛り込むと、宿泊者の満足度が高まり、良いレビューにつながります。ルールや案内の整備は、一度作成して終わりではなく、運営を通して得られたフィードバックをもとに定期的に更新していくことが理想的です。
宿泊者名簿の管理体制を確認
民泊運営者には、宿泊者名簿を適切に作成・保存する法的義務があります。これは、宿泊者の安全確保とともに、公衆衛生や治安維持の観点からも重要視されており、宿泊日や氏名、住所、職業、国籍などの基本情報を記録し、帳簿として保存しなければなりません。
特に外国人宿泊者については、パスポートの写しの保存も義務付けられているため、本人確認の手続きも欠かせません。この名簿は、保健所や警察から求められた際に速やかに提示できるよう、整理された状態で管理する必要があります。
手書きや紙ベースでも問題ありませんが、デジタル管理にすることで効率よく情報を蓄積し、必要なときにすぐに検索できる体制を整えることが望ましいです。さらに、個人情報を取り扱う関係上、プライバシー保護の観点からも十分な対策が求められます。
無断で第三者に情報を提供したり、不適切に保管したりすることのないよう、データの保存場所や取り扱いルールについても明文化しておくと安心です。宿泊者名簿の管理は法律上の義務であると同時に、信頼ある民泊運営者としての信用にもつながるため、適切な体制づくりが不可欠です。
民泊の許可申請をスムーズに進めよう
民泊運営を始めるには、単に物件を用意すればよいわけではなく、法律や自治体の規制に沿った手続きを一つひとつ確実にこなしていく必要があります。特に許可申請には多くの書類作成と準備が求められ、さらに申請後も現地調査や設備の確認など、時間と手間がかかる工程が続きます。
しかし、事前相談を通して必要な要件を明確にし、行政と積極的にコミュニケーションを取ることで、不備のない申請書類を整えられ、スムーズに許可を取得することが可能です。また、許可取得後も運営に必要な準備を怠らず、宿泊者にとって安心・快適な環境を整えることが、リピート利用や高評価につながります。
民泊事業は手続きの煩雑さを乗り越えた先に、地域資源の活用や国際交流の場として大きな可能性を秘めた事業です。しっかりと計画を立てて、法令を順守しながら、安心・安全な民泊運営を目指していきましょう。